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2005..21 

          のんきな一日

とあるのんきな日、私は寝っ転がって考えた。
最近、いいことが続いてるよな、と。
いいことがあると、たいてい悪いことがあるぞ、と。

たとえば
道端で、ふいに暴漢に襲われたとしよう。
今の私に、暴漢から身を守る力があるだろうか。
大体私の攻撃力って、今どれくらいだ?

私はやにわに起き上がり、突如己の延髄に、猛然と延髄切りをくらわした。
「…!」 後頭部に電流が走り、私はコタツ布団につっぷした。
「バッ…!!」 0.何秒間、薄れそうな意識の中で、激しい怒りが私を襲う。
0.何秒後、激しい後悔が私を襲う。
死んだら恥ずかしいから、生きてくれ、私!
いや、死なないまでも…。 「あいうえお」 私は声に出して言ってみる。
右手と左手の指を、バラバラに動かしてみる。
ふう。 元通りみたい。 たぶん。

殴られた(自分に)おかげで頭がはっきりしてきた私は、今日やっておいたほうがよい用事を思い出す。
出かける支度をしながら、「お前が強いのはよくわかったから、ははは」と、笑うだけの余裕が出ている。

小雨の中、自転車を押して歩いていると、久しぶりにおまわりさんに呼び止められる。
人に呼び止められて私は、人に呼び止められて初めて気づく程度に人恋しかったことに気づく。
登録確認をするおまわりさんを相手に、少しはしゃぐ私。
購入したばかりの雨・晴れ兼用リバーシブルサドルカバーを、自慢げにひっくり返してみせたりする。
が、完全にスルーされる。
無線を持つおまわりさんの手を見ながら、本職は一体どのくらいの攻撃力なんだろう、と思ったりする。

先日、来春から小学校の幼稚園児を大勢集めた交通安全集会を見物する機会があった。
「子供の事故で、一番多いのはなんだと思いますか?」の問いかけに、
「はい!はい!」「知らないおじさんに連れて行かれる!」
「泥棒にさらわれる!」「殺される!」「包丁で刺される!」
「みんな。小学生になったら、手をあげて指された人だけが答えるのが決まりです。わかりましたか?」
「はーい!」
「はい、じゃあ、わかる人。」
「はい!はい!はい!はい!」
「はい、じゃーねー…そこの、青い帽子の子。」
「………………。」
そうこうするうちに、最初の質問を完全に見失ってしまったのは、きみだけじゃないぞ青帽子、私もだ。
「答えは、と・び・だ・しです。」
耳慣れないフレーズに、さらにテンションの下がるみんな。
待て待てみんな、小学校の決まりは忘れてもいいが、これは確かに覚えといたほうがいいぞ!

仮に、このおまわりさんを、「踊る大走査線」並みの志でもって警官になった人としよう。
とにかく、今日はそう仮定したい気分である。
だからおまわりさん、ちょっと雨降ったぐらいで、気軽にひっくり返んなよ。
この雨・晴れ兼用リバーシブルサドルカバーのように。
私はそれを、もう一度ゆっくりとひっくり返し、ニヤッと笑う。
顔に色濃く「?」マークを浮かべつつも、おまわりさんは優しく微笑み返す。
よし、いいだろう。

小雨の中をゆらゆらと歩きながら、私はさらに考える。
これであのおまわりさんは頑張ってくれるとして、実際事態は一人の警官によってどうなるものでもない。
見知らぬ人に、知ってる人にさえ、おちおち優しくもしていられないことを、最近は園児でも知っている。
自分の空手チョップによって死ぬ可能性もあることを、今では私も知っている。
ところで私は今、晩御飯の買い物をして帰ったほうがいいのか。

考える私のすぐ目の前を、スピードを全く緩めず、猛然と車が走り抜ける。
轢かれてやらんと、わからんようだな。
くそ、お前ら順番に死ねっ!

「あらよっと。」
私はカラ元気いっぱい自転車に飛び乗る。
サドルカバーの面は変えんぞ。 絶対に変えん。
なんのために買ったんだよ。

そしてこのまま、買い物もしないで帰っちゃうの?私。









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